だれかさんのブログ

仮想通貨関係をメインで書く

暗号通貨の"セキュリティ"と法定通貨の"セキュリティ"

 

金融庁長官が先日PoWについて英語で語ったそうである。

https://www.fsa.go.jp/common/conference/danwa/20200825.pdf

 

内容としては、「信用はマイナーによる膨大な電力とマイクロチップに依存している、これは受け入れがたい資源の浪費ではないか?そうかもしれないが、一種の"Proof of Work"はブロックチェーン以外にも我々の周りにもいくつかある、(中略)GDPのかなりの部分はProof of Workの一種として費やされていると思う。細かい刻印の入った顔が描かれている紙幣や、華麗なビルのきれいなオフィスで良いスーツを着たビジネスマン、きれいなデザインのプレゼンテーションスライド、高級レストランでの娯楽、広告に出ているムービースター、カサノヴァ*1が恋人に渡す花束、きれいに印刷された本とその表紙、大聖堂での結婚式等について考えると、こういったものはそれぞれ、紙幣、ビジネス、書籍、愛、結婚といった本質的な価値と関係がないが、真剣さや信頼性を示すためだけに非常に多くの二酸化炭素が排出され、資金が使われている。
そのため、私たちの社会で信頼を生み出す上でのProof of Workによる役割を見直し、
これらをどう再構築できるかを考えることで、社会性の効率と効果を向上させる大きな可能性を秘めている。」*2

 

とのことだが、私としては、Proof of Workによる電力の無駄は紙幣やビジネスといったものと全く関係ないように思う。

 

暗号通貨における"セキュリティ"とは

そもそもビットコイン等のPoW型の暗号通貨は、悪意ある人間によってネットワークをコントロールされないために、皆でハッシュを生成して、善意のネットワークが悪意のネットワークのハッシュレートを常に上回り続ける。ハッシュレートの過半数が善意で動くならちゃんと動くというものである。また、ハッシュレートが多ければ多いほど攻撃コストが上がり、攻撃は余計困難になるといったものである。実際のところは、おそらくマイナーのほぼ100%は金のためにマイニングしているが、ただ、それが結果としてセキュリティに結びついている。というよりはそのように、金のために動いた結果セキュリティに結びつくようなシステムにしているとも言えるかもしれない。

悪意ある人間にネットワークをコントロールされないためだけに、ASICやFPGAGPU*3が稼動され、そのコインのためのハッシュを生成しているのだ。

ここで重要なのは、PoWではリソースは全てセキュリティに密接に関わっていることである。
ASIC等の採掘機械の購入や、電気代、およびそのために使用されるリソースはセキュリティに関わる、これらは仮にコインのシステムを脅かす悪人がいなかったら無駄なリソースの浪費になるが、しかし、悪人が出る可能性を考慮すると必要なものである。

 

 

法定通貨における"セキュリティ"とは

では法定通貨における"セキュリティ"とは何かについて考えると、私は、司法、警察、政府や軍といったものと答える。

というのも、結局のところ、国家のシステムを脅かす悪人がいなかったらこれらのものは必要ないからだ。「ごめんで済めば警察はいらねぇんだよ」とは言うが、実際、内部からの安全を守るための法律や司法、警察といったものが存在し、外部からの安全を守るための軍が多くの国家に存在する。これは脅威がなかったら必要ないものである。だからこそ、法定通貨におけるPoWというのは、警察や司法や軍といったものではないかと考える。これらを無駄と言う人間は少ないと思うが、しかし、仮に悪人がいなかったら不要であるとは思わないだろうか?ただ現実にはどうしても存在するので必要である。

 

そのため、個人的には、金融庁長官の発言というのは、少しずれているのかな?という印象を受けた。金融庁も、取引所の規制を司っていたり、その他にもインサイダー取引の監視をしていたりしている、どちらかといえばこのほうがPoWなのでは?という印象があった。

 

ただし、ここまで書いたものの、実のところ、金融庁長官が全くブロックチェーンをわかっていないとも思わない。というのも、"匿名の人から受け取ったビットコインが本物であることを確かにするために、造幣局、銀行、規制当局、中央銀行財務省、教授、警察、検察、裁判所、軍といったものを必要としない"*4
というところについては、全くその通りだからである。ここらがPoWと結びつけば完璧だったのだが、惜しいなと思ったが故にこの記事を書いた。
ただ、いままで全く暗号通貨を知らなかったにもかかわらずよく惜しいところまで辿りついたとも思う。惜しいところまでいけたということを考慮すると優秀な人間ではあるのかもしれない。

*1:恐ろしく多くの人と恋愛した人物らしい

*2:原文:"The trust has thus come to depend on the enormous electricity and microchips deployed by miners. Would it not be an unacceptably wasteful use of resources? It may be, but I would argue that some sorts of “proof of work” are all around us, not just in Blockchains. Let us loosely define proof of work as a process costly enough to make others believe that only serious people with good standing can do it and that such cost would not have spent with dubious motifs. I would say that a significant part of our GDP is spent as this kind of proof of work. Think about tons of banknotes with fine engravings on their faces, business people wearing well-tailored suits at elaborate offices in elegant buildings, repeated visits and beautifully designed presentation slides, entertainments at sophisticated restaurants, movie stars appearing on advertisement clips, neatly printed books with smart covers, a bunch of roses a Casanova hands to his lover, or marriage ceremonies at renowned cathedrals. They have nothing to do with the intrinsic value of the banknotes, business proposals, advertised products, books, love, or marriage they are affiliated with. Trillions of tons of CO2 are emitted, and a corresponding amount of dollars are spent, just to give the impression of trustworthiness and seriousness. Therefore, reviewing the roles of proof of work in generating trusts in our society and thinking how they could be reengineered would have a big potential to improve the efficiency and effectiveness of our social intercourse."

*3:コインによって何が使われるかが違う

*4:原文:You do not need mint bureaus, banks, regulators, central banks, finance ministries, professors, policemen, prosecutors, courts or armies to ensure that Bitcoin I received from an anonymous person is authentic and genuine.